商品やサービスの特徴をどれだけ説明しても、なかなか人の心が動かない。その理由は、「何を売るか」から伝えているからかもしれません。
第9回では、サイモン・シネックのゴールデンサークル理論をもとに、WHATやHOWではなく、「なぜこの仕事をしているのか」というWHYから伝える大切さを考えます。
町の電器屋さんがリフォームを始めた理由も、「商売を広げるため」ではなく、「お客さまが安心して暮らせるよう、家のことを何でも相談できる存在になるため」と伝えれば、印象は大きく変わります。
WHYを明確にし、本質と一致した言葉で伝えることが、共感や信頼を生み、自然に選ばれる経営につながります。
ゴールデンサークル理論の動画
サイモン・シネック|優れたリーダーはどうやって行動を促すか
https://www.youtube.com/watch?v=qp0HIF3SfI4&t=190s

「売る気がないのに自然に売れる、本質整合経営」。
この番組は、人や組織の本質を言語化し、本質と一致した生き方、そして本質整合した仕事と経営のあり方を探究する番組です。

こんにちは。本質整合研究所の櫻木隆志です。

インタビュアーの高須早智子です。
今回で第9回目となりました。7月も、もう終わりに近づいていますね。
最近もお忙しくされていましたか?

先日、ある電器店の経営者の皆さんが集まる場で、講演をさせていただきました。
今回は、そのときのお話も少しできればと思っています。

電器店の皆さんが集まる場で、講演をされる機会は多いのですか?

これまでも、いろいろな場所で講演をしてきました。
なかでも最も多かったのは、町の電器屋さんの経営者が集まる場でのお話です。
これまでは、
「売る気がないのに自然に売れる」
というテーマでお話しすることが多かったのですが、今回は初めて、この番組と同じ「本質整合」という言葉を前面に出して講演しました。
少し専門的で、マニアックに聞こえる言葉でもありますので、皆さんにどのように受け止められるか、少し不安もありました。
ただ、実際には、とても熱心に聴いていただくことができました。

講演では、どのようなお話をされたのでしょうか?
会場の空気が、一瞬で変わった話

講演では、この番組でもお伝えしているような、本質整合の入り口となる話をしました。
私は講演やセミナーをするとき、会場の空気を感じながら話すことが多いんです。
こちらの話が伝わっているか。
このまま続けてもよいか。
皆さんが、どこに関心を持っているのか。
そうした反応を見ながら、話の進め方を少しずつ変えています。
今回も、「本質整合」というテーマで、会場の空気がどうなるか少し心配していました。
ただ、予想以上に反応がよく、安心しました。
実は、これまでさまざまな講演をしてきたなかで、会場の空気が一瞬にして大きく変わった経験があります。
その出来事がきっかけとなって、私自身の探究の方向も、今の本質整合へと進んでいきました。

講演中に、会場の空気が変わったことを、はっきり感じたんですね。

そうなんです。
「この話をしたら、どのような反応になるだろう」
と思いながら、初めてその内容を話しました。
すると、それまでとは明らかに空気が変わり、皆さんの表情や目の色も変わったんです。
後にも先にも、あれほどはっきりと会場の変化を感じたことは、あまりありません。
そのとき、
「ここに、何か大切な鍵があるのではないか」
と思いました。
そこから、その考え方をさらに深掘りしていきました。
そして次第に、
「売る気がないのに自然に売れる」
「売る人も買う人も笑顔になる」
という商売のあり方へ、つながっていったんです。
そのきっかけとなったのが、ゴールデンサークル理論でした。
ゴールデンサークル理論とは

ゴールデンサークル理論ですか。初めて聞きました。

一般には、あまり聞き慣れない言葉かもしれません。
世界的に有名なプレゼンテーションイベントに、TEDがあります。
そのTEDで、サイモン・シネックという方が行ったプレゼンテーションが、非常に多く再生されています。
タイトルは「Start With Why」。
日本語では、
「WHYから始めよ」
という意味です。
日本語版の動画では、
「優れたリーダーは、どうやって行動を促すか」
というようなタイトルになっています。
私がその動画を見たとき、
「これは、町の電器屋さんの経営者の皆さんに、ぜひ伝えるべき内容だ」
と思いました。
そこで、セミナーのなかでゴールデンサークル理論について話してみたんです。
すると、会場の空気が、それまで経験したことがないほど変わりました。

それほど、はっきりと感じるほどだったんですね。
多くの人は、WHATから伝えている

ゴールデンサークル理論を簡単に説明すると、人に何かを伝える順番についての話です。
一般的には、まずWHATから伝えます。
WHATとは、
「何をしているのか」
「何を売っているのか」
ということです。
例えば、
「私たちは家電製品を販売しています」
「この商品には、こういう機能があります」
という話ですね。
次にHOWを伝えます。
HOWとは、
「どのように提供しているのか」
「どのような特徴や方法があるのか」
ということです。
多くの企業やお店は、
WHAT → HOW
という順番で伝えています。
しかし、サイモン・シネックは、多くの人を動かしてきた優れたリーダーは、WHYから伝えていると言います。
WHYとは、
「なぜ、それをしているのか」
「何のために、その活動をしているのか」
「何を信じているのか」
ということです。
つまり、
WHY → HOW → WHAT
という順番で伝えるのです。
人を動かしたリーダーは、WHYから語った

サイモン・シネックは、さまざまな分野の事例を紹介しています。
例えば、スティーブ・ジョブズ。
マーティン・ルーサー・キング。
ライト兄弟。
ビジネス、社会運動、発明と、それぞれ分野は違います。
しかし、多くの人を動かした人たちには共通点がありました。
彼らは、
「何をするのか」
から話し始めるのではなく、
「何のためにするのか」
から伝えていたんです。
例えば、製品のプレゼンテーションであれば、
「この製品には、こういう機能があります」
と説明する前に、
「私たちは、テクノロジーによって世界を変えたい」
という信念から語る。
マーティン・ルーサー・キングも、有名な演説で、
「私には夢がある」
という、自分が実現したい未来から話しています。
何をするのか、どのようにするのかよりも前に、
「なぜ、それをするのか」
を伝えていたわけです。
WHYに共感すると、人は行動する

なぜ、WHYから話すと、人が動くのでしょうか?

サイモン・シネックは、その理由について、人間の脳の働きと関連づけて説明しています。
論理や言葉を扱う脳の領域は、WHATやHOWの理解に関わります。
一方で、感情、信頼、意思決定などに関わる、より深い脳の領域は、WHYと結びついていると説明しています。
つまり、WHYに共感すると、理屈だけではなく、もっと深い感覚の部分で、
「この人の考えに共感する」
「この人を応援したい」
「自分も行動したい」
という気持ちが生まれるということです。
この説明は、とても分かりやすいと思いました。

伝える順番を変えるだけでも、受け止め方が大きく変わるんですね。

そうですね。
ただ、単に順番を入れ替えればよいというだけではありません。
多くの人は、そもそも「なぜやっているのか」を、あまり伝えていないんです。
「この商品には、こういう特徴があります」
「このサービスは、このように便利です」
という説明だけで、購入を勧めることが多いと思います。
しかし、本当に思いを持って仕事をしている人ほど、その思い、つまりWHYから伝えるべきではないかと思ったんです。
町の電器屋さんは、まさにそのような方が多いと感じていました。
そこで、経営者の皆さんに、
「皆さんも、自分たちのWHYを伝えていきましょう」
とお話ししました。
街の電器屋さんの原点にあったWHY

私なりの事例として、松下幸之助さんのお話もしました。
松下幸之助さんは、家電製品を単に販売するというよりも、
「家事労働から日本の女性を解放したい」
という思いを持っていたと言われています。
例えば、洗濯機を開発することも、単に新しい製品を売るためではありません。
それまで手作業で大きな負担となっていた洗濯を、機械によって楽にする。
暮らしを豊かにする。
そのWHYがあり、その手段として家電製品が生まれていったと捉えることができます。
町の電器屋さんの経営者の皆さんにも、もともと似たような思いがあります。
お客さまの暮らしを支えたい。
地域の人に安心して生活してほしい。
困ったときに頼れる存在でありたい。
ただ、現在の業界では、
「今なら、この商品が安いです」
「この期間はキャンペーン中です」
という、商品や価格を中心とした伝え方が多くなっています。
本来持っていた思いと、実際の売り方の間に、違和感を抱えている方も多かったのだと思います。
そのため、
「皆さんが本当に大切にしているのは、そこですよね」
「その思いを伝えてよいんですよ」
という話が、強く響いたのではないでしょうか。
それが、会場の空気が大きく変わった理由だったのだと思います。
リフォームを始めた理由を、どう伝えるか

WHYを伝えるかどうかで、同じ活動でも、お客さまからの見られ方は大きく変わります。
例えば、現在の町の電器屋さんは、家電製品を販売するだけではありません。
水回り、ガス、リフォームなど、家に関するさまざまな相談に対応しています。
ところが、WHYを伝えずに、
「当店では、リフォームも始めました」
とだけ発信したら、お客さまはどう思うでしょうか。
おそらく、
「家電製品だけでは商売が厳しくなったから、リフォームも始めたのだろう」
と受け取られます。
なぜなら、何も伝えなければ、
「この店は、自分たちの利益のために商売をしている」
という、世間一般の前提で見られてしまうからです。
一方で、
「お客さまが家のことで困ったときに、知らない業者を一から探すのではなく、信頼できる私たちに何でも相談できるほうが、安心して暮らしていただけます。だから私たちは、家電製品だけでなく、住まいのことを幅広くお手伝いしています」
と伝えたら、どうでしょうか。

まったく印象が違いますね。
消費者の立場からすると、
「自分たちの利益を増やすために仕事を広げた」
という印象から、
「お客さまの安心のために、仕事の範囲を広げた」
という印象に変わります。

そうなんです。
やっていることは同じでも、WHYが伝わるかどうかで、受け止め方は大きく変わります。
売る側の「当たり前」は、お客さまには伝わらない

電器店の方からすると、
「お客さまのために、家のことを何でも相談できるようにしている」
というのは、当たり前のことかもしれません。
しかし、お客さまからすると、言われなければ分かりません。
売る側は、
「そんなことは、わざわざ言わなくても分かってもらえるだろう」
と思っています。
一方、お客さまは、
「商売を広げるために、リフォームも始めたのだろう」
と考えているかもしれません。
そこには、売る側と買う側の認識のギャップがあります。
だからこそ、
「何のために、それをやっているのか」
を、きちんと言葉にして伝えることが大切です。
高須さんは何かを販売されているわけではないと思いますが、今のお話は刺さりましたか?

刺さりました(笑)。
何かを売っていなくても、自分が何のために仕事をしているのかは、伝えたほうがよいですよね。

そうなんです。
仕事をしている人であれば、業種を問わず、WHYを伝えることには意味があります。
一人ひとりのWHYを言葉にする

講演でゴールデンサークル理論をお伝えしたところ、皆さんに強く反応していただきました。
そこで次に、
「では、皆さんそれぞれのWHYを明確にしていきましょう」
という取り組みへ進んでいきました。
同じ町の電器屋さんでも、仕事に対する思いや、大切にしていることは一人ひとり少しずつ違います。
地域に貢献したい人もいれば、
高齢者が安心して暮らせる地域をつくりたい人もいる。
家族のようにお客さまと関わりたい人もいる。
家電を通して、暮らしを楽しくしたい人もいる。
ですから、誰かのWHYをそのまま借りてきても、本当の意味では響きません。
その人自身が、
「自分は、何のためにこの商売をしているのか」
を考え、言葉にする必要があります。
私は、その言語化を支援し、言葉にしたWHYを、ホームページ、ニュースレター、名刺、チラシなど、さまざまな形にして、お客さまや地域の人へ伝えるお手伝いをしてきました。
その結果、経営者本人の意識が変わり、お客さまとの関係が変わり、商売のやり方そのものが変わっていきました。
これまでお話ししてきた、さまざまな変化は、そこから生まれていったんです。
WHYを伝えることは、テクニックではない

ゴールデンサークル理論は、伝える順番を変えるという意味では、コミュニケーションの技法としても使えます。
ただ、本質整合経営において大切なのは、単なる話し方のテクニックとして使わないことです。
売るために、もっともらしいWHYをつくるのではありません。
自分の内側にすでにある思いや、仕事を続けてきた理由を掘り下げ、それを言葉にする。
そして、そのWHYと、実際の仕事のやり方を一致させる。
そうして初めて、言葉に力が生まれます。
WHYを伝えることによって自然に売れるのは、上手な言葉でお客さまを動かすからではありません。
その人が本当に大切にしていることが伝わり、そこにお客さまが共感するからです。
今回の本質

今回のお話で、櫻木さんが講演でどのようなことを伝えてこられたのかも、よく分かりました。
ゴールデンサークル理論については、まだまだ続きがありそうですね。
それでは、最後に今回のお話の本質をお願いします。

今回の本質は、
「WHATではなく、WHYから伝えよう」
ということです。
何を売っているのか。
どのような特徴があるのか。
どのような方法で提供しているのか。
それらを伝えることも、もちろん大切です。
しかし、その前に、
「なぜ、この仕事をしているのか」
「何のために、この商品やサービスを届けているのか」
「どのような未来を実現したいのか」
を明確にし、伝えることが重要です。
WHYが伝わると、お客さまは、単に商品や価格を見るのではなく、その人の思いや考え方を見るようになります。
そして、そこに共感した人は、
「この人にお願いしたい」
「この店を応援したい」
と思ってくださるようになります。
現場で実践してきた経験からも、ゴールデンサークル理論には、非常に大きな力があると感じています。
ただし、売るためのテクニックとしてWHYをつくるのではなく、自分の本質にあるWHYを明確にし、実際の仕事と一致させながら伝えていく。
それが、本質整合経営におけるWHYの伝え方だと思います。

WHYを明確にし、それを伝えることで、お客さまからの見られ方も、仕事のあり方も変わっていくんですね。
このお話は、次回も続きそうです。ぜひ、次の配信も楽しみにしていただければと思います。
この番組では、リスナーの皆さまからのお便りをお待ちしています。
概要欄のお便りフォームから、ご質問やご感想など、ぜひお気軽にお寄せください。
また、Xで感想を投稿される際は、ハッシュタグ「#本質整合」を付けていただけるとうれしいです。
それでは、お聴きいただきありがとうございました。

ありがとうございました。
「本質と一致して生きる」。
本質整合研究所がお届けしました。
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