一人でじっくり考えることにも価値があります。しかし、同じところをぐるぐる回り、堂々巡りになってしまうことはないでしょうか。
第16回では、対話によって考えが深まる仕組みを、ソクラテスの問答やAIとの対話、講演・授業でのワークショップを通して考えます。
会話が同じ階で言葉を交わすものだとすれば、対話は、相手から投げかけられた問いによって、思考の別の階へ移動するエレベーターのようなもの。自分にはなかった視点が入り、まだ気づいていなかった思いや前提へ、深く潜ることができます。
生成AIやLINEが急速に広がった背景にも、人間にとって自然な「会話形式」があるのかもしれません。
今回の探究テーマは、「あなたは、誰とのどんな対話のときに、考えが深まりますか?」です。

「売る気がないのに自然に売れる、本質整合経営」。
この番組は、人や組織の本質を言語化し、本質と一致した生き方、そして本質整合した仕事と経営のあり方を探究する番組です。

こんにちは。本質整合研究所の櫻木隆志です。

インタビュアーの高須早智子です。
櫻木さん、今回もよろしくお願いします。

よろしくお願いします。

前回は、「会話と対話は何が違うのか」というテーマで、さまざまなお話を伺いました。
今回は、そこからさらに深く探究していくんですね。

そうですね。
かなりマニアックなテーマだと思いますが、もう少し深く潜ってみたいと思います。
会話と対話の違いを振り返る

まず、前回のおさらいからお願いします。
櫻木さんは、会話と対話の違いを、どのように考えていましたか?

もちろん、これが唯一の正解ということではありません。
ただ、現時点では、会話は比較的表面的な言葉のやり取りであり、対話は、その言葉の背後にある背景や思いまで共有していくものではないかと考えています。
会話では、すでに自分が分かっていることを相手へ伝えます。
一方、対話では、自分にも相手にも、まだ十分には分かっていないことを、一緒に探っていきます。
言葉を交換するだけでなく、
「なぜ、そう感じるのだろう」
「その言葉の奥には、何があるのだろう」
「自分たちは、本当は何を大切にしているのだろう」
と、少しずつ深いところへ入っていく。
そのプロセスが、対話には含まれているのではないかと思います。

お互いにも分かっていないことを、一緒に探っていく。
その考え方は、私もとても納得できます。
人と深く話していると、自分一人では気づかなかったことに気づく瞬間がありますよね。
会話の先に、対話が始まる

ありますよね。
例えば、友人同士でも、夫婦や親子でも、日常的には必要なことを伝え合います。
「今日は何時に帰る」
「これを買ってきてほしい」
「学校で、こんなことがあった」
そうしたコミュニケーションは、会話です。
そこから、
「あなたは、その出来事を本当はどう感じたの?」
「なぜ、それがそんなに気になったの?」
「私は、あの言葉を聞いてこう感じた」
と、互いの内側へ少し入っていくと、会話が対話へ変わっていきます。
同じ二人が話していても、言葉を交わしている深さによって、会話にも対話にもなるのだと思います。
一人で考えることの強みと限界

深く考えるのであれば、一人で考えたほうが、自分のペースで進められるようにも思います。
それでも、誰かと対話することに意味があるのでしょうか。

一人で考えることにも、大きなメリットがあります。
誰にも邪魔されず、自分のペースで、一つのことをじっくり考えられます。
人に合わせる必要もありません。
ただ、一人で考えていると、同じところをぐるぐる回ってしまうことがあります。
堂々巡りになり、考えがまとまらない。
また、自分の視点からしか物事を見ることができないため、考えが偏ったり、思い込みに気づけなかったりします。
自分にとって当たり前になっている前提は、自分一人ではなかなか見えません。
そこへ誰かの視点が入ると、
「そんな見方もあるのか」
「自分は、なぜそれを当然だと思っていたのだろう」
「本当の問題は、別のところにあるのかもしれない」
と、新しい発想や気づきが生まれます。
それが、対話の大きな価値だと思います。
AIに知識ではなく、問いを求める

AIと対話しているときにも、そのような気づきはありますか?

私は、ものすごくあります。
AIは、知らないことを教えてもらったり、情報を検索したりするために使われることが多いと思います。
もちろん、その使い方にも大きな価値があります。
ただ、私はどちらかというと、AIから知識を得るためではなく、自分の考えを知るために対話していることが多いんです。
自分が投げかけた言葉に対して、AIから別の視点や問いが返ってくる。
それを受けて、
「なぜ、自分はその言葉に反応したのだろう」
「本当は、こう考えていたのかもしれない」
と、自分自身への理解が深まっていきます。
自分の使い方を見ていると、
「私はAIで何かを検索したいというより、対話したいのだな」
と分かります。
AIは、答えを受け取る道具であるだけでなく、自分がまだ気づいていない考えを探る対話相手にもなり得ます。
ソクラテスは、なぜ対話を続けたのか

対話について考えるとき、やはりソクラテスの存在が浮かびます。
ソクラテスは、自分では本を一冊も書かなかったとされています。
また、一方的な講義を行うというより、街で人々と対話を続けました。
「正義とは何か」
「よく生きるとは、どういうことか」
「勇気とは何か」
と問いかける。
相手が答えると、その答えに対して、さらに問いを重ねていく。
すると、相手は次第に、自分が分かっていると思っていたことを、実は十分には分かっていなかったと気づきます。
かなり面倒くさいおじさんだったと思いますが(笑)、ソクラテスは、対話によって人間の思考が深まることを理解していたのではないでしょうか。

対話をしていたソクラテス自身にも、たくさんの気づきがあったのでしょうね。

そうだと思います。
ソクラテスには「無知の知」という有名な言葉があります。
自分が知らないことを、自分は知らないと知っている。
多くの人は、分かっていないのに、分かったつもりになっています。
ソクラテス自身は、自分も分かっていないからこそ、問い続けたのでしょう。
自分が分かっていないことに気づく。
それが、探究の第一歩です。
そして、まだ分かっていないことへ向かうために、対話が重要だったのではないかと思います。
良い対話は、言葉の奥を聞く

櫻木さんが考える「良い対話」とは、どのようなものでしょうか。

相手の発言に対して、表面的に言葉を返すだけではなく、
「なぜ、この人はそう言ったのだろう」
「どのような経験や背景があるのだろう」
「この言葉の奥に、どのような思いがあるのだろう」
と、関心を向けながら進む対話だと思います。
相手が発した言葉に、すぐ自分の意見を返す。
それだけでは、言葉と言葉が行き交うだけで、なかなか深まりません。
相手の言葉をいったん受け取る。
その言葉が出てきた背景へ関心を持つ。
必要であれば問い返す。
そうすると、少しずつ対話が深いところへ進んでいきます。

相手が言葉にしていない思いまで、少しずつ汲み取っていくことが、良い対話につながるんですね。

そうですね。
もちろん、勝手に相手の気持ちを決めつけるのではありません。
「もしかすると、こういうことですか?」
「そのとき、どのような気持ちだったのでしょうか?」
と確かめながら、二人で探っていく。
その姿勢が大切だと思います。
一方的な講演より、参加できる場へ

講演の場合、一方的に話しているだけでは、聞いている人は、表面的な言葉を受け取るだけになりがちです。
もちろん、優れた講演から大きな気づきを得ることもあります。
ただ、話している人と聞いている人のやり取りがある。
あるいは、参加者同士で話し合う。
自分で考え、言葉にする時間がある。
そうした要素が加わると、内容が自分の中へ入りやすくなり、気づきも生まれやすくなると思います。

私も以前、小学校6年生を対象に、2時間の講演を頼まれたことがありました。
小学生が2時間ずっと話を聞き続けるのは難しいので、半分はワークショップにしました。
途中から子どもたちに声を出してもらったり、実際に取り組んでもらったりしたんです。
すると、一気に乗り気になりました。
私自身も、
「小学生は、ここまでできるんだ」
と、新しい発見がありました。
聞くだけではなく、実際に参加してもらうことで、子どもたちの考えも深まったように感じます。

いいですね。
先生が話し続け、生徒がひたすら聞くという一方向の授業は、人間にとって、あまり自然な学び方ではないのかもしれません。
自分で考える。
誰かと話す。
試してみる。
自分の言葉で説明する。
そうした体験型の学習のほうが、理解も深まりやすいのではないでしょうか。
学校の授業も、対話型へ変化している

私も、自分の子どもの授業参観へ初めて行ったときに、昔の授業との違いに驚きました。
先生が一方的に教えるのではなく、かなり子どもたちに話させるんです。
算数でも、式と答えだけを教えるのではなく、
「なぜ、この式になると思いますか?」
「別の考え方はありますか?」
と、子どもたちへ問いかけていました。
答えだけではなく、「なぜ」を大切にしているんですね。

教育の方法も、少しずつ進化しているのだと思います。
一方的に知識を渡すだけではなく、問いかけによって自分で考えてもらう。
対話を通して理解を深める。
そのような授業が増えているのでしょうね。
人は、受け身で聞かされ続けるより、自分が参加したほうが自然に集中できます。
生成AIが急速に広がった理由

最近、もう一つ考えていることがあります。
生成AIが、ここ1、2年で爆発的に普及しましたよね。
その大きな理由の一つは、会話形式だったことではないかと思うんです。
従来の検索サービスの延長のような操作方法であれば、ここまで一気には広がらなかったのではないでしょうか。
人間に話しかけるように入力すると、会話の形で答えが返ってくる。
専門的な操作方法を覚えなくても、とりあえず話しかけてみることができます。
人間にとって馴染みのある会話形式だったからこそ、初めての人にも使いやすかったのではないかと思います。

確かに、生成AIは、検索よりも誰かに相談する感覚に近いですよね。

LINEも同じかもしれません。
LINEは、子どもから高齢者まで幅広く使われています。
これも、会話のやり取りをそのまま画面上に並べる、非常に自然な形です。
一人の文章が長く続くと、読む側は疲れてしまいます。
しかし、短い言葉が交互に表示される会話形式なら、自然に読み進められます。
生成AIもLINEも、人間が長く続けてきた会話の構造を、そのままデジタル上に持ち込んだことが、普及につながったのかもしれません。
AIとの対話にも文化の違いが現れる?

さらに、会話形式だからこそ、AIの使い方には国民性や文化の違いが表れるのではないかとも考えています。
例えば、日本ではLINEスタンプが非常によく使われます。
文章で明確に説明するのではなく、スタンプの表情や雰囲気によって、
「ありがとう」
「申し訳ない」
「了解しました」
「ちょっと困っています」
といったニュアンスを伝えます。
場の空気や文脈、言葉にならない気持ちを共有する。
これは、日本的なコミュニケーションの一つかもしれません。
そう考えると、AIへの話しかけ方や、AIからどのような答えを求めるかにも、それぞれの文化が表れる可能性があります。
日本人は、AIを情報検索の道具としてだけでなく、気持ちを察し合う相手や相談相手として使う人が多くなるかもしれません。
これは、まだ仮説ですが、探究してみたいテーマです。
読むPodcastも、会話の形を残す

本質整合研究所のホームページで公開している「読むPodcast」も、対話形式になっていますね。

はい。
できるだけ、LINEのように会話が自然に入ってくる形にしたいと考えています。
一人の長い文章として読むよりも、
高須さんから問いがあり、
私が考えて答え、
また別の角度から問いが返ってくる。
その形のほうが、読み手も対話へ参加しやすいと思います。
会話は同じ階、対話は上下に移動する

会話と対話の違いを考えているなかで、一つのイメージが浮かびました。
会話は、同じ階で言葉を交わしているようなものです。
目の前にある出来事や情報について、同じ高さでやり取りする。
一方、対話は、上下に移動するエレベーターのようなものではないでしょうか。
相手から思いもよらなかった問いを投げかけられる。
すると、自分の考えが、今までとは違う階へ移動します。
より深い前提へ降りていくこともあれば、これまで見えなかった広い視点へ上がることもある。
一人で考えていると、同じ階をぐるぐる歩き続けることがあります。
しかし、相手の一言や問いかけによって、エレベーターの扉が開き、別の階へ移動できる。
そんな感覚があります。

とても分かりやすいですね。
会話は同じ階で続いていて、対話では、考えが別の階へ移動する。

そして、そのエレベーターのスイッチになるのが、問いなのだと思います。
「なぜ、そう思うのですか?」
「それは、本当にあなたが望んでいることですか?」
「反対の立場から見たら、どうでしょうか?」
「その奥には、どのような思いがありますか?」
そうした問いを押されることで、自分一人では移動できなかった階へ進めます。
問いには、思考の深さを変える力があるんです。
良い対話相手は、答えを与える人ではない

そう考えると、良い対話相手とは、正しい答えを教えてくれる人だけではないと思います。
自分がまだ考えたことのない問いを投げかけてくれる人。
言葉の奥にあるものへ、関心を向けてくれる人。
すぐに結論を出さず、一緒に立ち止まってくれる人。
そのような相手との対話によって、私たちは自分一人では見えなかったものを発見できます。
AIも、使い方によっては、そのような対話相手になり得ます。
ただし、AIの答えをそのまま受け入れるのではなく、返ってきた言葉をきっかけに、自分で考える。
その往復があって初めて、対話による探究になるのだと思います。
今回の探究テーマ

それでは、今回のお話の探求テーマをお願いします。

今回の探究テーマは、
「あなたは、誰との、どのような対話のときに、考えが深まりますか?」
です。
家族との対話でしょうか。
友人との対話でしょうか。
仕事仲間やお客さまとの対話でしょうか。
専門家や先生との対話でしょうか。
あるいは、AIや自分自身との対話かもしれません。
どのような関係の相手だと、安心して深く話せるでしょうか。
どのような問いを投げかけられたときに、考えが別の階へ移動するでしょうか。
反対に、どのようなやり取りでは、同じところを回り続けてしまうでしょうか。
考えが深まる対話とは、どのようなものなのか。
皆さん自身の経験から、ぜひ考えてみてください。

本質整合研究所のホームページでは、「読むPodcast」を公開しています。
音声で聞いて終わるのではなく、文字で読み返しながら、ご自身の考えを深めていただけたらうれしいです。
また、この番組は答えを一方的にお伝えする番組ではありません。
リスナーの皆さまと一緒に問いへ向き合い、本質を探究していく番組です。
今回の探究テーマ、
「あなたは、誰との、どのような対話のときに、考えが深まりますか?」
について、ぜひあなたのご意見をお便りフォームからお聞かせください。
皆さまから届いた問いや気づきが、次回以降の探究につながるかもしれません。
それでは、今回もお聴きいただきありがとうございました。

ありがとうございました。
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