自分にとって商売とは何か。自社は、何のために存在しているのか。その定義を明確にし、発信すると、お客さまとの関係や経営はどのように変わるのでしょうか。
第8回では、「地域貢献」を仕事の目的として掲げた町の電器屋さんの事例を紹介します。
認知症講座、防災教室、AED講習、不要品を無料で循環させる「持ってけマート」。直接の売上にはつながらない活動を続けることで、「この店は本当に利益だけが目的ではない」ということが、言葉ではなく行動として伝わりました。
経営理念は、掲げるだけではお題目で終わります。自分なりの定義を言葉にし、発信し、実際の行動と一致させる。そのとき共感や応援が生まれ、売る人、買う人、地域全体に、よい循環が広がっていきます。

「売る気がないのに自然に売れる、本質整合経営」。
この番組は、人や組織の本質を言語化し、本質と一致した生き方、そして本質整合した仕事と経営のあり方を探究する番組です。

こんにちは。本質整合研究所の櫻木隆志です。

インタビュアーの高須早智子です。
今回で第8回目の配信となりました。もう7月も半ばです。配信が始まってから、間もなく1か月ですね。
櫻木さん、ここまでPodcastを続けてみて、いかがですか?

収録した音声を送っていただくのですが、実は自分で聴いていると、途中で聴いていられなくなることがあります(笑)。
話すことよりも、自分の話を聴くことのほうに慣れていないんですよね。
「これで、きちんと伝わっているのだろうか」
「話し方が少しゆっくりしすぎているのではないか」
など、いろいろ気になってしまいます。

最初は、自分の声を聴くことに違和感がありますよね。

そうですね。
声だけではなく、話し方についても、
「自分は、こんなふうに話しているのか」
と感じます。
今のところ、話すことよりも、自分の放送を聴くほうが、少しストレスですね(笑)。

そんなことはありませんよ。
櫻木さんならではのお話は、この番組でしか聴けないと思います。これから、さらに多くの方に聴いていただきたいですね。
それでは、今回のテーマをお願いします。前回から続くお話でしょうか。
自分にとっての「商売」を定義する

そうですね。
前回は、辞書には「商売とは利益を得る目的で行うもの」と書かれているけれど、それが必ずしも商売の本質とは限らない、というお話をしました。
辞書に書かれているということは、それが現在の社会で一般的に使われている意味だということです。
ただ、その常識をそのまま受け入れるのではなく、
「自分にとって、商売とは何なのか」
を、自分なりに定義することが大切だと思います。
私はこれまで、町の電器屋さんの方々と一緒に、それぞれのお店にとっての商売を定義し直し、それを発信する取り組みをしてきました。
「商売とは、利益を得るために行うものではない」
「自分たちは、何のためにこの仕事をしているのか」
ということを考え、言葉にしていったんです。
すると、その考え方や定義に共感したお客さまが、お店を強く応援してくださるようになりました。
共感した人は、比較せずに相談してくれる

お店の考え方に深く共感してくださった方は、そのお店で扱っている商品や、お願いできる仕事が必要になったとき、ほかのお店と比較せず、真っ先に相談してくださるようになります。
価格や条件を調べ、何社かを比較したうえで選ぶのではなく、
「これは、まずあの人に相談しよう」
と思っていただけるんです。
そうなると、商売のやり方だけでなく、商売そのものの質が変わっていきます。
だからこそ、
「自分にとっての商売とは何か」
「自社は、何のために存在するのか」
という、自分なり、自社なりの定義を明確にし、それを発信することには、経営上とても大きな価値があります。

どれほど素晴らしい考えを持っていても、発信しなければ、周りの方には分かりませんよね。
「このお店は、何を大切にしているのだろう」
ということが、なかなか見えてこないと思います。
発信しなければ、世間の定義で見られる

そうなんです。
何も発信しなければ、お客さまは、そのお店を世間一般の常識に当てはめて理解します。
世間のなかに、
「商売とは、自分の利益を得るためにするもの」
という認識があるとすれば、何も伝えていないお店は、
「この店も、自分たちの利益のために商売をしているのだろう」
と、自動的に思われてしまいます。
町の電器屋さんに限らず、多くの人は、実際には利益だけを考えて仕事をしているわけではありません。
お客さまの役に立ちたい。
自分の強みを生かして、誰かに貢献したい。
地域や社会を、少しでもよくしたい。
そのような思いを持って仕事をしている人は、たくさんいます。
ところが、それを言葉にして発信しなければ、お客さまには伝わりません。
結果として、
「自分の生活や利益のために、この仕事をしている人」
と見られてしまいます。

せっかく、お客さまのためにという思いや、誰かに役立てる強みを持っているのに、それを発信しないのは、もったいないですね。

本当にもったいないと思います。
前回もお話ししましたが、相手から単なる営業だと思われれば、電話は途中で切られ、訪問しても話を聞いてもらえません。
しかし、
「この人は、自分の利益だけを目的にしている人ではない」
「自分たちのことを本当に考えてくれている人だ」
と認識が変われば、お客さまとの関係も大きく変わります。
私は、このような商売のあり方を多くの方に知ってもらいたいと思い、このPodcastでも発信しています。
利益を目的にしないほうが、利益がついてくる

櫻木さんが関わってこられた町の電器屋さんのなかにも、もともと現在の商売のやり方に違和感を持っていた方がいらっしゃったのでしょうね。
櫻木さんと対話をするなかで、
「自分にとっての商売は、やはりこういうものだった」
と気づき、本質に沿った経営へ変わっていった。
その結果として、利益も自然についてくるようになったということですね。

そうなんです。
「商売の目的は利益ではない」
「私たちの店は、利益を得るためだけに存在しているのではない」
と明確にしたほうが、結果として利益がついてくる。
そのようなパターンが、さまざまなお店で起こることが分かってきました。
地域貢献と商売を分けていた電器屋さん

例えば、静岡に、もともと地域への思いがとても強い電器店の経営者がいました。
日頃から、地域のためにさまざまな活動をされていた方です。
ただ、その方のなかでは、
「地域貢献は地域貢献」
「商売は商売」
と、二つが完全に分かれていました。
商売では、従来どおり商品を売るための活動を行う。
一方、地域のための活動は、商売とは別に行う。
そのように考えていたんです。
そこで私は、
「何のために、この仕事をしているのですか」
と、対話を重ねていきました。
その方の思いを掘り下げていくと、最後に行き着いた言葉は、やはり「地域貢献」でした。
その方にとっては、地域への貢献こそが、仕事をする根本的な目的だったんです。
そこで、
「それなら、地域貢献を経営の表に出しましょう」
という話になりました。
電器店の仕事を、単に商品を販売するためではなく、地域に貢献するための一つの手段として位置づけ直したんです。
そして、その考え方をホームページやニュースレターなどで、積極的に発信していきました。
そこから、そのお店の経営状況は大きく変わっていきました。
目的が変わると、行動が変わる

お店の考え方が、地域の方々にも少しずつ浸透していったんですね。

そうですね。
まず変わったのは、電器店の経営者本人でした。
仕事の目的が明確になったことで、本人の意識が切り替わり、日々の行動も変わっていったんです。
例えば、認知症について学ぶ講座や、防災教室、AEDの講習会などを開催するようになりました。
これらは、直接商品を販売するための活動ではありません。
普通に考えれば、
「電器屋さんが、なぜこのようなことをするのだろう」
と思われるかもしれません。
しかし、そのお店が、
「地域への貢献を目的に仕事をしている」
ということが伝わっていれば、活動の意味も理解してもらえます。
言葉で、
「私たちは地域貢献を大切にしています」
と発信するだけでは、単なるお題目のような経営理念で終わる可能性があります。
しかし、発信している言葉と、実際に行っている活動が一致していれば、
「この人は、本当に地域のために行動している」
「本当に利益だけが目的ではないんだ」
と、お客さまのなかにあるお店への認識が書き換わっていきます。
そして次第に、お店とお客さまとの関係が、単なる「売る人と買う人」ではなくなっていくんです。

その店主の方も、櫻木さんとの対話を通して、
「自分が本当に大切にしたいのは、地域貢献なんだ」
と気づいた。
その目的に合わせて活動していくことで、発信していることと、実際の仕事が一致していったわけですね。

そうですね。
まさに、それが本質整合です。
無料で物を循環させる「持ってけマート」

その電器屋さんをはじめ、いくつかのお店では、「持ってけマート」という活動も行っています。
家庭にある不要品のなかには、
「自分にはもう必要ないけれど、捨てるにはもったいない」
というものがありますよね。
そうした品物をお店へ持ってきてもらい、必要な人に無料で持って帰ってもらう活動です。
フリーマーケットのようなものですが、本当にすべて無料です。
持ってくる人も、それを売って利益を得るわけではありません。
「自分は使わないけれど、誰かの役に立つなら使ってほしい」
という思いで持ってきてくださいます。
お店も、品物の売買によって利益を得るわけではありません。
ただ、この活動を応援したいと思う方のために、寄付箱を置いています。
集まった寄付金は、持ってけマートや地域活動を継続するための運営費として使います。
受け取る人だけでなく、持ってくる人も喜ぶ

この活動は、実際に運営するとなかなか大変です。
品物を集め、確認し、並べ、管理する必要があります。
それでも、地域の方々には、とても喜ばれています。
例えば、子ども服やおもちゃなどは、必要な期間が比較的短いですよね。
まだ十分に使えるのに、子どもの成長によって使えなくなるものがたくさんあります。
それを必要な家庭に循環させることで、受け取る方が喜ぶのは、想像しやすいと思います。
私が興味深いと感じたのは、品物を持ってくる側の方も、とても喜んでいることです。
「このような活動をしてくれて、ありがたい」
「誰かに使ってもらえるなら、とてもうれしい」
と言って、まだ十分に価値のある品物を持ってきてくださいます。
中古品店へ持ち込んだり、フリマアプリで販売したりすれば、お金になるような品物もあります。
それでも、
「売ってお金にするより、誰かの役に立ってほしい」
「この電器屋さんの活動を応援したい」
という理由で、持ってきてくださる方が多いんです。
善意が循環する場所になる

素晴らしい循環ですね。
活動を応援したいという、よい思いを持った方々が集まりますし、お店に人が集まることで、地域にも活気が生まれそうです。

そうなんです。
少し俗な言い方かもしれませんが、「よい人が集まってくる」んですよね。
普通、町の電器屋さんは、商品を買う用事がなければ、なかなか店内に入りにくい場所でもあります。
ところが、持ってけマートがあることで、お店へ入る心理的なハードルが、とても低くなります。
これまで入りにくいと感じていた方も、気軽に来店するようになります。
そして店内で交わされる会話も、
「何を売るか」
「何を買うか」
という売買の話だけではありません。
持ってきた人も、持って帰る人も、電器屋さんも、
「誰かの役に立ちたい」
「地域を少しよくしたい」
という思いで関わっています。
無料で品物を持って帰った方のなかにも、
「この活動を続けてほしい」
と、寄付をしてくださる方がたくさんいます。
集まった寄付金を、また次の地域活動に使う。
そうして、善意とお金と物が、地域のなかで循環していくんです。

本質整合経営の、とても分かりやすい事例ですね。
櫻木さんは、その変化を間近で見てこられたわけですね。
言葉だけでなく、行動によって伝える

そうですね。
持ってけマートも、最初から簡単に運営できたわけではありません。
なかには、ほかの人には使ってもらいにくい品物が持ち込まれることもありますし、仕分けや処分など、運営上の課題もあります。
ただ、経験を重ね、やり方が分かってくると、多くの人に喜ばれる活動に育っていきます。
そして何より、
「このお店は、本当に利益だけを目的にしていない」
ということが、言葉ではなく、活動を通して伝わります。
何の利益にも直接つながらないように見える活動を、本気で続けている。
その姿を見れば、
「地域貢献を大切にしています」
という言葉も、単なる宣伝文句ではなくなります。
私は、このように、経営理念や目的を実際の行動によって証明することが、非常に力強いブランディングになると考えています。
格好よい言葉を掲げるだけではなく、その言葉どおりに行動する。
それによって、お客さまのなかにあるお店への認識が変わり、共感や信頼が生まれます。
そういう意味で、持ってけマートは、本質整合経営を象徴する、とても分かりやすい事例だと思います。
今回の本質

これからも、街の電器屋さんのさまざまな事例を伺えそうですね。楽しみにしています。
それでは最後に、今回のお話の本質をお願いします。

今回の本質は、
「自分なりの辞書を持とう」
ということです。
辞書や世間の常識が、
「商売とは利益を得るために行うもの」
と定義していたとしても、それをそのまま受け入れる必要はありません。
自分にとって、商売とは何なのか。
自分にとって、仕事とは何なのか。
自分の会社は、何のために存在するのか。
それを自分自身で考え、定義することができます。
そして、その定義を言葉にして発信し、実際の行動と一致させていく。
そうすることで、その考え方に共感する人が集まり、応援してくださるようになります。
結果として、お客さまとお店の関係が変わり、売る側も買う側も、周囲の人たちも幸せになっていく。
自分なりの定義を持つことは、自分の仕事や経営の軸を持つことです。
同時に、自分がどのような世界をつくりたいのかを、社会へ示すことでもあると思います。

自分なりの辞書を持つことで、仕事の目的が明確になり、発信や行動も変わっていく。
そして、その思いに共感する人が集まることで、お店にも地域にも、よい循環が生まれていくんですね。
この番組では、リスナーの皆さまからのお便りをお待ちしています。
概要欄のお便りフォームから、ご質問やご感想など、ぜひお気軽にお寄せください。
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それでは、お聴きいただきありがとうございました。

ありがとうございました。
「本質と一致して生きる」。
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